「月平均所定労働日数」とは何かご存じでしょうか。
月平均所定労働日数は、残業代を計算する際などに用いることがあります。
月平均所定労働日数は、実際に働いた日を指す実労働日数とも異なるものです。
- 月平均所定労働日数とは何か
- 実労働日数とどのように異なるか
- 月平均所定労働日数の計算方法
について弁護士が解説します。
月平均所定労働日数の定義
「月平均所定労働日数」とはどういう意味でしょうか。
なぜ、「月所定労働日数」という概念が必要なのでしょうか。
月平均所定労働日数の定義や、月平均所定労働日数という概念が必要な理由について解説します。
(1)月平均所定労働日数とは?
所定労働日数とは、就業規則や労働契約に定められている労働日数のことです。
「所定」とは「あらかじめ決まっていること」を意味します。}
月平均所定労働日数とは、年間の所定労働日数を12ヵ月で割って算出した、1ヶ月あたりの平均の所定労働日数のことです。
なお、1年間の所定労働日数は「年間所定労働日数」といいます。
年間所定労働日数は、「1年の暦の日数-年間休日」で計算することができます。
(2)実労働日数との違い
実労働日数とは、社員個人が実際に働いた日数のことです。
実労働日数は、有給休暇の取得や欠勤があった場合に、所定労働日数よりも少なくなります。
また、所定休日や法定休日に労働をした際などは、所定労働日数よりも多くなることもあります。
(3)月平均所定労働日数という概念が必要な理由
月平均所定労働日数は割増賃金・残業代を計算するときに利用されます。
残業代は、以下のように計算します。
【残業代の基本的な計算式】
残業代=1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率
このうち、1時間あたりの基礎賃金は、月給制の場合、次のように計算します。
【1時間あたりの基礎賃金】
月給の基礎賃金÷(※)1年間における1ヵ月の平均所定労働時間
※1年間における1ヶ月の平均所定労働時間
=月平均所定労働日数×1日の所定労働時間
このように、月給制の場合、月平均所定労働日数をもとに、法定時間外や深夜の残業代、休日出勤手当などを計算することになります。
年次有給休暇も所定労働日数に含まれる
休暇とは、働く義務のある日が休みになることをいいます。
有給休暇・育児休暇・看護休暇・介護休暇などの法定休暇(法律上定められた休暇)や、会社が定めるリフレッシュ休暇・慶弔休暇・生理休暇などの特別休暇(企業独自に定める休暇)は、所定労働日数に含まれます。
これに対し、休日は所定労働日数に含まれません。
休日は元々労働の義務のない日のことを指します。
休日には、法定休日(原則週に1回の法律上の休日)と法定外休日(企業が独自に定める休日)があります。
たとえば土日が休日の会社の場合、土日のうち、いずれか1日が法定休日、残り1日が法定外休日となるのが原則です。
月平均所定労働日数の算出方法
月平均所定労働日数は次の通り算出します。
月平均所定労働日数=年間所定労働日数÷12ヶ月
このうち、年間所定労働日数は、次の計算式で算出できます。
年間所定労働日数=365日-年間休日
このように1年間の暦日数から年間休日(法定休日+法定外休日)を引くことで算出できます。
年間休日の日数は就業規則などに記載されています。
なお、有給休暇やリフレッシュ休暇などの「休暇」は所定労働日数に含まれますので、1年間の暦日数からは引きません。
また、1年間の所定日数を数える際の起算日に決まりはないため、1月1日~12月31日と区切ったり、4月1日~3月31日の年度で区切ったりすることもできます。
所定労働時間とは?
所定労働時間とは、法定労働時間(※)の範囲内で、事業者が独自に設定できる労働時間のことです。
※法定労働時間は原則1日8時間、1週40時間
所定労働時間は休憩時間を除く、1日の始業から就業までの時間を指します。
労働基準法第34条1項によって、休憩時間は以下のとおり決まっています。
1日の労働時間 | 休憩時間 |
6時間以下 | 0分以上 |
6時間超え8時間以下 | 45分以上 |
8時間超え | 1時間以上 |
会社がこの休憩時間のルールに違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万以下の罰金刑に処されます(労働基準法第119条1号)。
所定労働時間は就業規則や雇用契約書(労働条件通知書など)で明示し、あらかじめ労働者に周知する必要があります。
所定労働時間を超えて労働した場合は残業となり、残業代などが支払われます。
月平均の所定労働時間は、「月平均所定労働日数 × 1日の所定労働時間」で算出できます。
残業の種類
所定労働時間を超えて労働すると残業になりますが、残業にはさまざまな種類があり、残業の種類によって割増率が異なります。
以下のケースの場合、割増賃金が発生します。
- 法定労働時間を超える残業(時間外労働)
- 法定休日での残業(休日労働)
- 深夜労働
しかし、以下の場合には、法律上は割増賃金を支払う必要がありません。
- 所定労働時間は超えるが、1~3には当たらない残業(法内残業)
ただし、上記の場合も、会社の就業規則などで割増賃金を支払うとのルールがない限り、所定労働時間と同じ賃金をもとに残業代が支払われます。
なお、管理監督者など、一部の方は、原則として、割増賃金(深夜労働に対する割増賃金を除く)が支払われません。
割増率
時間外労働、休日労働、深夜労働に対しては、法律上、次のように割増率が定められています。
残業の種類 | 割増賃金が発生する条件(※1) | 最低限度の割増率 | |
時間外労働 | 1日8時間・週40時間のいずれかを超えて労働。 (法定休日の労働時間は含まず。)(※2) | 時間外労働が月60時間までの部分 | 1.25倍 |
時間外労働が月60時間を超えた部分 | 1.5倍 (※3) | ||
深夜労働 | 22~5時の間の労働 | 1.25倍 | |
休日労働 | 法定休日の労働 | 1.35倍 | |
重複する部分 | 時間外労働が0時間を超えて月60時間までの部分と、深夜労働が重複する部分 | 1.5倍 | |
時間外労働が月60時間を超えた部分と、深夜労働が重複する部分 | 1.75倍 (※4) | ||
法定休日に深夜労働した部分 | 1.6倍 |
※1 残業時間として認められるためには、「会社の指示によって労働させられた」ことが必要です。
※2 時間外労働の例外
常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作は除く)、保険衛生業、接客業については、週44時間を超えた労働
※3 次に該当する企業(中小企業、以下同じ)は、2023年4月以降の時間外労働にのみ適用。
- 小売業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が50人以下
- サービス業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が100人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または常時使用する労働者が100人以下
- その他:資本金3億円以下または常時使用する労働者が300人以下
※4 中小企業では、2023年4月以降の時間外労働にのみ適用。
【まとめ】月平均所定労働日数は残業代の計算などに使われる
月平均所定労働日数は、残業代を計算する際などに必要となります。
月平均所定労働日数は、休日・休暇の日数や、就業規則の規定内容によっても変動するものであり、会社や人によって異なるものといえます。
今一度、就業規則などを確認してみるとよいでしょう。
そして、月平均所定労働日数を基に残業代を計算してみた結果、「支払われている残業代が不足しているのではないか」と疑問を持つ方は、弁護士に相談しましょう。
アディーレ法律事務所では、残業代請求のお取り扱いをしております。残業代請求でお困りの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。